その後お父様はきっちり私のアパートまで私を送り届けてくれて、私は今度こそ
「お茶でも?」の一言は言わなかった。
「元気で」
ミケネコお父様が軽く手を挙げてちょっと眉を下げる。
「はい、お父様も。ペルシャ砂糖さん大事にしてあげてください」
変なの。まるで恋人同士が永遠の別れに遭遇したみたいに―――
でも私たちにその感情はなかったし、あったとしてもそれは愛ではなくそれに似た何か。
私たちは互いに愛する人の影を追い求め、二人で迷子になっていただけ。
私はお父様の見つめる中、今度こそ一度も振り返らず自分の部屋へ帰った。
もうお父様のバーに飲みに行くのはやめよう。
倭人の影を追い求める真似はやめよう。
そう決意してベッドに入る。
ここ数日間、ベッドに潜り込むと考えようとしなくても思い浮かんでくるのは黒猫の姿で
でもこの日だけは―――
何も考えずにぐっすりと眠りにつけた。
夢を見た。
夢の中で私は迷路に迷い込んでいて、私の両サイドには大きくて高い黒い壁が聳え立っている。
前を向くと白い道が広がっていて、後ろを振り向いても同じ道がどこまでも続いている。
迷路って壁伝いに歩くと出られるって言うわよね。
私はその黒い壁にそっと手を伸ばしそれに手を触れると
その壁は硬くなくて、ふわふわ暖かかった。
空を見上げるといつの間にか私は迷路の中から抜け出ていて、そのぐるぐると渦を巻く丸い迷路を見下ろしていた。
ゴールの先に黒い大きなネコが丸まっていて、迷路だと思っていたのは黒いネコのふわふわのしっぽだった。
何だ…
迷ったと思ったら、私はずっと
黒猫の中にいたんだね。
「にゃ~」
黒いネコが小さく泣いて、私はそのネコを抱き上げた。
「ホントはね、倭人のことだーい好きだよ。
ごめんね」
『にゃ~』