「でも僕が……元々体の弱かった彼女に心労を負わせて
無理させて、まだ生きられる命を僕が縮めた―――
最近ふと考える。
紗依があのときフランス行きを断っていたら、彼女は今でも生きられたのか―――とね」
私はお父様の手に自分の手をそっと重ねた。
それはタクシーで一瞬だけ触れた体温より少しだけ低かった。
お父様はのろのろと顔を上げ、眉を下げて私を見てくる。
私は無言で首を横に振った。
「店長のせいじゃありません。サエさんは……たとえ決められた命が短くなろうと、あなたを愛することを決めて
凄く幸せだったと思います」
一度だけ倭人が見せてくれた。家族三人で写ってる写真。
お父様とサエさんは凄く幸せそうで、その写真を見つけた倭人も幸せそうで―――
「彼女が残した軌跡は未来の大きな幸せへと繋がったんです」
ゆっくりと言うとお父様は最初のうち目を開いていたものの、ゆっくりとまばたきをして
「ありがとう…やっぱり朝都ちゃんは凄いなー…
僕の方が年上なのに、君にはいつも大事なものが何か教えられる」
大事なもの―――
お父様は私の指をそっと握り返し、吸い終わったタバコの吸殻を空き缶に入れた。
「カズミちゃんと結婚が近づいてきてさー……考えてたんだよね。
僕は彼女を本当に幸せにできるのか―――って。
僕が彼女と結婚して、彼女は本当に幸せなのか。
また愛する人を失ったりとか……
もう嫌なんだ」



