どうやらサエさんも相席してくるお父様のことが徐々に気になっていたようだ。
それは良い意味での『気になる』
お父様が番号を聞いてサエさんは『気になる』から、はっきりと恋を意識した、と後々になってお父様は知ることになったようだ。
お父様とサエさんはそこから親しくなって喫茶店でお茶をする関係から映画館や水族館にデートに行く関係へ、
ゆっくりゆっくり愛をはぐくみ、その三年後…お父様が海外の料理店に出向になったのを機に結婚を決めたみたいだ。
「フランス行きの話が出たときは迷ったよ。
紗依を残してフランス行きを決めたら、超遠距離になるでしょ?
でも夢は諦めたくない。自分の力がどこまで通用するのか試してみたい。
愛と夢の間でずいぶん揺れた。
不安要素はいっぱいあった。
だから思い切ってプロポーズしたんだ。
フランスに着いてきて欲しい、って。
僕にとっては人生最大の賭けだったよ。
紗依がついてきてくれると言うのだったら、彼女を一生幸せにしよう。
ついてくれなかったから、彼女を諦めよう。
てね」
「答えは―――?」
わざわざ聞かずとも、分かっていた。
でも敢えて聞いたのは、お父様の気持ちを推し量りたかったのかもしれない。
「答えは、僕についてきてくれる―――って。
びっくりしたのはさー、彼女が
僕が『いつ言い出してくれるんだろう』って悩んでたって」
笑っちゃうよね。
お父様はそう続けてはにかみながらコーヒーを勢い良く飲み干し、空になった空き缶に吸殻を捨てる。
「そのとき気づいた。
ああ、自分は何を悩んでいたんだろう―――って、もう少し彼女の気持ちを信じていれば良かったってね」
サエさんの気持ち―――……
「人は常に選択して道を切り拓く生き物だと思う。
その選択が間違っていようと、正しかろうと、ただ進むしかないんだ―――
紗依の選択は、彼女にとって最良だったのかどうか僕には分からない。
だけど彼女は一度だって『後悔してる』なんて言わなかった」



