「『ぅっわ…何だろう…すっごく良い香り』ってちょっとドキドキしてね」
お父様は心臓の当たりを押さえて恥ずかしそうに笑う。
お父様、それは甘酸っぱい恋の香りですよ♪とはからかえず、
「可愛いですね」
思わず思ったことを言うとお父様は照れくさそうに苦笑い。
「紗依の香りはどこまでも優しくて、どこまでも心地よくて
ずっと近くで感じたいと思って、その日僕は……」
何々、告白したとか!?デートに誘ったとか??
私はその後の話の続きがきになってわくわくとお父様を見上げた。
お父様は長々と口からタバコの煙を吐き出しどこか遠い目。
「目的のバスの停留所で降りることを忘れちゃったんだ」
何だそりゃ。
ガクリと首を折ったけど…
ぷっ
私は思わず吹き出した。
可愛い、って言うかお父様もそんな時代があったんだな~
甘酸っぱい恋の味。それは誰もが一度通る青春の光景。
改めて考えるとちょっと笑えたり。
「まぁ一歩間違えれば痴漢の域に入るけどー、でもその香りで紗依のことが気になりだして
それ以降僕は紗依の隣が空いてるとそこに座るようになった。
どんなに空いてて他の席が空いていようと、彼女の隣に―――
さすがにそれが三ヶ月以上も続くと、紗依も訝しく思ったみたいで
ある日向こうから声を掛けてきたんだ。
『どうしてここに?』とか『席いっぱい空いてますよ』とかじゃなく
『良く一緒になりますよね』
彼女はライラックの香り以上に優しく微笑みかけてくれて、
勇気を振り絞ってその日、僕は彼女に電話番号を聞いた。それがきっかけだった」



