お父様はポケットから長財布を取り出し、慌てて万札を運転手さんに手渡し、あわただしくお釣りを受け取ると
タクシーから飛び出てきた。
どうして―――
「はは…何でだろう…
何でかこのまま“さよなら”もないかなーとか思って」
お父様は恥ずかしそうに笑って頭の後ろに手をやる。
“どうして”なんて心の中でも呟くのはバカげてる。
だって私―――
お父様がこうやって降りてくること、少しだけ期待してた。
お父様のこと好きとかじゃない。冷静に考えればペルシャ砂糖さんだって居るのに。
ペルシャ砂糖さんからお父様を奪うつもりはないし、“そう”なったら今度こそ黒猫に顔向けできないよ。
そう分かっているけど
ただ、
寂しかったのだ。
誰でも良かったわけじゃない。
大好きな人と血が繋がった人に―――錯覚だと思っても
傍に居て欲しかった。



