お父様の手が指一本の距離を飛び超えて私の手に触れたのは、その一瞬だけだった。
お父様はすぐに手を離し、
「明日晴れるかなー…」とわざとらしく話題を変え、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
変なの。私よりずっと大人で私より遥かに経験を積んでいそうなのに
ときどき酷く不器用で、そこがやっぱり黒猫と同じだ。
まだそんなに時間が経ってないのに妙に懐かしいのと、こんな小さなことでも黒猫との共通点を見つけ出そうとしている自分に
嫌気がさす。
私は一体―――どうしたいのだろう。
車内を微妙な沈黙が満たしながらも
その五分後には私のアパートの前まで来ていた。
……着いちゃった。
私はタクシーを降り、開け放ったままの扉から顔をちょっと覗かせて
「ありがとうございました…」小さく頭を下げた。
「こちらこそ、遅くまでありがとう。
……それじゃ」
お父様は軽く手をあげ、運転手さんに次の行き先を告げる。
「今日は色々…ありがとうございました。…おやすみなさい」
きっと今扉が閉まれば、私たちは何事も無かったように…いえ実際何もなかったけれど
引き返せる気がした。
軽いデジャヴ。
そう、黒猫と付き合うときもそう考えていた。
―――今ならまだ引き返せる。
早く扉が閉まって、と思う反面走り去るタクシーを見送りたくない自分が居て
胸の奥がむかむかとくすぶっている。
頭を下げて何となく名残惜しそうに車内を見ると、
お父様の視線とぶつかった。
扉が閉まる瞬間
「すみません!僕も降ります。
清算してください」



