「昨日の……」
ミケネコお父様はテキーラの瓶を握り締め、私と向かい合っている。
その先を聞かれたらどうしようかと思ったけれど
「店長~!このカクテルこれで大丈夫ですかぁ?」
違うお客に作っていたカクテルが仕上がったのだろう。さっきの若い女の子が透明の液体が入ったタンブラーグラスを店長に突き出し、
「…ちょっと待って…」
ミケネコお父様は味見用の長いスプーンを手に取った。
正直―――助かった……
ミケネコお父様が本当は何を言いたかったのか分からないけれど、
きっと私はちゃんと答えられない気がした。
“大人”の顔をして何も知らないフリ―――それができればいいのに、たぶんそれだけは無理だ。
「うん、いいよ。これで出して」
ミケネコお父様は味見用のスプーンを水の入ったグラスに突っ込みGOサインを出したけれど
大胆にもそのスプーンを取り返し、自ら味見をする店員。
ちらりと私の方を見て、ペロリ…そのスプーンでカクテルを掬うと一飲み。
ぅわぁ。
客(私)の居る前で大胆だなぁ。
私は唖然。
きっと私たちの会話に聞き耳を立てていたに違いない。
ミケネコお父様もその子の態度に少しだけちっさいため息。
「新人の教育は難しいよ」
教育って言うより、あの子は根本的な何かが違う……
と思ったけれど私はその言葉を飲み込んだ。
「何飲む?朝都スペシャル?」
朝都スペシャル…ってこないだミケネコお父様が作ってくれたカクテルのことかな。
テキーラとシロップとイチゴの甘くて可愛いカクテル。
「今日はショットでください」
私が申し出ると、ミケネコお父様は目をぱちぱち。
「しょっぱなから飛ばすね~、大丈夫?」
「大丈夫です。あ、良かったらお父様も…」
私が薦めると
「じゃぁ、ありがたく~♪」と言ってお父様は二杯分のショットグラスにテキーラを注ぎいれた。
私が薦めた理由。
それはさっきの言葉に続く言葉を―――聞きたくなかったから。



