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「突然すみません」


いつも以上に丁寧に頭を下げると、何となく雰囲気で察したのか


「今日は少し早めに閉めるよ。お客さんも少ないし」と言ってミケネコお父様はぎこちなく笑う。


言葉通り、その十分後には最後のお客さんが帰っていき、そのまた十分後にはお店の掃除なんかも省いて従業員を帰らせるお父様。


二人きりになった店内で、ミケネコお父様は無償でカクテルをつくってくれた。


マルガリータだ。


ミケネコお父様はウィスキーのロックを傾け、






「家庭教師を辞めさせてください」






重苦しい沈黙の中、それ以上に重い口調で何とか切り出すと


カラン…


ロックグラスの中で氷を鳴らしてミケネコお父様はウィスキーを飲み干した。


「そんなことだろうと思ったよ。倭人と何かあった?」


私を攻めるような声音じゃなく、ミケネコお父様は穏やかに聞いてきた。


「別れることにしました。


勘違いしないでほしいのですが、彼に何一つ落ち度はありません。


私の勝手なわがままです。申し訳ございません」


声がどんどん小さくなっていく。


風邪薬のせいか喉がカラカラに干上がって、私はマルガリータにせわしなく口をつけた。


「朝都ちゃん…他に好きな人ができた?」


またもやんわり聞かれ、私は慌てて首を横に振った。


「じゃ、何で別れるの?」


次の言葉は予想できたけれど






「まぁ、男と女の仲は一言で言い表せるほど簡単なものじゃないしね」






ミケネコお父様は無理やり笑顔を浮かべて、お代わりのウィスキーをグラスに注いだ。