「朝都先輩大丈夫っすか」


出迎えてくれたのはおなじみ後輩くんで、手にしたビーカーの中は色鮮やかなピンク色をしていた。


「私の風邪より、その中身を心配したら?


何なのよそれ、また変な薬作って」


「これっすか!これは惚れ薬っすよ♪


遂に完成したんス」


後輩くんは一人楽しそう。


惚れ薬ぃ??キミ…そんなの研究してたの。


てかそんなフザケタ研究許す大学もどうなってんだ。


「こんちわ~ッス!あれ、朝都さん風邪もういいんですか?」


出入りしてる製薬会社はやたらとチャラいし。


「ご心配ありがとうございます、溝口さん。もう大丈夫です」


「朝都さんが風邪とか。次の日は絶対台風来るかと思ってたけど天気はずれましたね~」


ついでに言うと、失礼な人。


溝口さんは後輩くんに笑いかけ、後輩くんもケラケラ笑っている。


「溝口さん、ちょうど良かった。惚れ薬の成果を見たいんで検体になってくれますか?」


後輩くんはビーカーを傾けて、溝口さんは思い切り顔をしかめている。


「あ、俺。もう涼子さんに惚れてるんで無理っす」


「キミも変な薬ばっかり研究してないで、真面目に研究しなさい?カーネル教授に怒られちゃうわよ」


一応先輩らしく注意をしてみる。


なんて事ない日常だ。くだらない会話をしてたら少しの間だけでも黒猫のこと忘れられるよ。


そう思ってたけれど。




「朝都先輩だって変な研究してるじゃないスか。どうです?




クロネコ印の白髪防止剤の研究は」





クロネコ―――………




思いがけずその言葉が耳に飛び込んできて、私は思わず俯いた。