「…いったい…、もぉ!」
と自分が悪いにも関わらずついだいごろーに当たってしまう。
私は打ったつま先を撫でながらその場に座り込んだ。
「黒猫、だいごろーを見つけてびっくりしてたな…
見つけられたこっちもかなり驚いたけど。
ふふっ」
こうやって部屋のあちこちを眺めると、黒猫との思い出がたくさん溢れてることに気付いた。
同棲してたわけじゃないのに、いたるところに黒猫の面影を思い出す。
その思い出はどれも楽しくて、まるで夢のようなものだった。
夢を見ていた、と思えばいいのか。
―――やっぱりそうは思えない。
私はそんなに器用じゃない。
「これだからイヤだったのよ。
自分のテリトリー内にオトコを入れるのは」
自嘲じみて笑い声を上げると、私はその場で両足を投げ出した。
ちょっと手を伸ばしてシンクの上のタバコを引き寄せる。タバコを一本引き抜いて火をつけるも喉がやられてるせいかちっともおいしくないし。
ぐしゃり…
握りつぶしたタバコの箱を見るとそれはいつものメーカーではなく
浩一の愛煙しているセブンスターだった。
手の中に私が望めば手に入る存在がいる。
ケータイを手にしてメモリを開いて、たった数秒で、何も聞かずとも飛んできてくれる人はいる。
でも
その手に縋ることはただの一度も望んだことがない。
バカな私。
早速、別れたこと後悔してるし。
私が望んでるのは
黒猫。
倭人―――
別れたくなかったよぉ。



