涙で濡れた顔を手のひらでぬぐって、こみ上げる嗚咽を堪えていると
『ふざけんじゃねぇ!!』
黒猫の怒鳴り声がまるで耳を劈く大きさで聞こえてきて、私は思わずケータイを少しだけ耳から離した。
声の大きさだろうか、それとも黒猫の怒りがケータイを振動させているのかビリビリと耳が痛い。
黒猫に怒鳴られたのははじめてだ。
ちっちゃな喧嘩はあったけれど、それでも一方的に拗ねてるだけの可愛い私の黒猫。
一度だって威嚇するように牙を向けられたことはなかったのに
本来の野生身を感じる迫力だった。
浩一と喧嘩したときだって全然怖くなかったのに
またも私の知らない黒猫の“男”の部分を見せられて、
悲しさとは違う怖さを感じて私の目に涙が溢れる。
堪え切れなくて小さく嗚咽を漏らすと
『…ごめん、言い過ぎた。
ねぇ、ちゃんと話そうよ。一方的に言われてもやっぱり俺納得いかないし。
今からそっち行くから』
黒猫は怒鳴って冷静さを取り戻したのか幾分か声を穏やかにさせて聞いてきたけれど
「来ないで。
何を話しても同じだよ」
溢れる涙を手で押さえながら私は精一杯の声で答えた。
「もうずっと前から考えてたことなの。
やっぱ無理だよ。歳の差だってあるし」
『そんなん関係ねぇよ』
「関係なくない!」
今度は私の方が怒鳴り声を上げた。もう嗚咽を堪えることもできない。
「何で簡単に言うのよ!
私はロシアン葵ちゃんのことだってずっとずっと頭から離れない!」
泣き声が混じった声で叫ぶと、倭人が驚いたように息を呑む気配がした。
『何で葵が出てくんだよ、あいつと何かあった?てかこないだドーナツ屋であいつが言ったこと気にしてるの?
相談してくれりゃ良かったじゃん』
「相談できるわけないじゃない!
だってあんた―――葵ちゃんと会ってたんでしょう?」
ああ…最悪のタイミングで聞いてしまった。
こんな風に感情的になって聞いたってこじれるだけだと分かってたのに。



