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「果凛!」
喘息のせいで激しく咳き込んでいたカリンちゃんはバッグから吸入器を取り出し、薬を吸引したものの、発作がひどいのか歩くこともままならなかった。
私は慌てて電話で倭人を呼び出し、
その数秒後にカリンちゃんママと思われるきれいな女の人と、倭人が二人でエレベーターを降りてきた。
「大丈夫か、果凛」
倭人がカリンちゃんの背中を撫でる。
「果凛!大丈夫!」
カリンちゃんママも心配そうにしてカリンちゃんの額を撫で、汗で張り付いた前髪を掻き揚げ、ぎゅっと彼女を抱きしめた。
「……ごめんなさい、私のせいなの…」
おろおろと倭人の方を見ると
カリンちゃんの元にしゃがんだ黒猫は眉を下げて私を見上げてきたけれど、それに対しては何も言わず
「果凛、立てるか?」
黒猫はカリンちゃんを覗き込み聞くと、カリンちゃんは青ざめた顔のまま顔をゆるゆると横に振った。
「じゃぁちょっとつかまってろ」
倭人はカリンちゃんを軽々抱き上げてお姫さまだっこ。
「ごめん朝都。迷惑かけたみたいで。
果凛を部屋に運ぶまでここで待ってて」
そう言われて、今度は私が首を横に振る番。
「迷惑だなんて言っちゃだめだよ。
カリンちゃんも好きでそうなったわけじゃないし。
私のことは気にしないで。
カリンちゃんお大事にね」
ぎこちなく手を上げて私はマンションを飛び出た。
「朝……!」
黒猫が私を呼びかけていたけれど、それにも答えられず私は必死に
走った。
ああ、私逃げてばかり。
ロシアン葵ちゃんのときもそう。
あのときは何が何だか分からず黒猫に真意を聞くのが怖くて逃げ出しちゃったけど…
今は―――
お姫さま抱っこをする倭人。
か弱いお姫さまを守る勇敢な騎士に思えて
それがなんだか一番しっくりくる光景だと
現実を思い知らされた。
“あたしから倭人ちゃんを取らないで”
あの言葉が
まるでナイフのように心に突き刺さり、心が―――痛い。



