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「アサちゃん…?」
ふいに頭上に影が落ちて、ゆっくりと顔を上げると紺色の大きな傘を持ったトラネコりょーたくんが心配そうに私を覗き込んでいた。
「どうしたの?倭人の家にいかないの?
こんなに濡れて……
もしかして倭人と喧嘩でもした?」
トラネコくんがいつになく神妙な面持ちで聞いてきて、私はその問いかけに無言で首を横に振った。
「違うの……喧嘩なんてしてない」
「じゃ、どうして……」
トラネコくんの質問を途中で遮って、
「これ、カリンちゃんへ退院祝い…少しだけど。みんなで食べて」
私はビニール袋でカバーされたケーキの箱をトラネコくんに手渡して立ち上がった。
「え…!倭人に会っていかないの!」
バシャバシャッ!
水溜りを跳ね飛ばして私は階段を降り、そのまま駆け出した。
雨が…肩をはじめとする体全体に降り注ぎ、体の芯から冷えてくる。
何度も水溜りに足を入れてしまって、私の足取りは走っているつもりなのに、よたよたと頼りなく
何度もつまづきそうになった。
「ちょっとアサちゃん、大丈夫?」
トラネコくんが追いかけてきて、それでもその言葉を無視しているうちに
ドタン…!
私は派手に転んでしまった。
まともな精神状態と言えなかったとは言え、こんなにみっともなく転んで恥ずかしい。
髪も服もドロドロ。
そんな状態で益々惨めな気持ちになって私は顔を上げられなかった。
冷たい地面に座り込みながら
「痛っ……」
転んだふしにすりむいたのだろう、膝から血が出てることに気づいて、今度こそ
自分何やってるんだよ
って恥ずかしくなってうつむいた。



