Chat Noir -黒猫と私- バイオハザー度Max- Deux(2nd)



「それじゃあたし、レッスンがあるんで」


ロシアン葵ちゃんはバイオリンのケースを抱えなおして、私の横を素通り。


会いにいったのかどうか、なんて確かめるほどでもない。


ロシアン葵ちゃんからは、倭人と同じ柔軟剤が香ってきたから―――


倭人、もう連絡取らないって言ってたのに、



私の知らないところで


二人で会ってたんだね。



どうして…


どうしてよ。



――――


私は落ちたケータイを拾って、そのままエントランスに続く石造りの階段で座り込んでいた。


マンションの住人らしい人が怪訝そうに通りかかったけれど、その気味悪そうな視線も気にならず、冷たい石段に腰を下ろして…


いったいどれぐらい時間が経ったのだろう…


いつの間にか降ってきた雨が肩や髪を濡らす。


傘……持って来てなかったなぁ。


帰らなきゃ……


そう思いつつも重い腰は上がらない。


いつのまにか雨は本降りになっていて、視界をぼんやりと灰色ににじませている。


倭人の家に行かなきゃ……


行って確かめなきゃ。それはほんの少しの希望。


『葵は来てないよ』


そう思うのに、その反面、


なんだか自分がひどく惨めで黒猫に見せる顔がない。帰りたい。とも思う。


だけれど私の足は会いに行くこともできなかったし、帰ることもできず


ただずっとぼんやりと雨の中、灰色の景色だけを見据えていた。