「こんにちは~」
ロシアン葵ちゃんはにこやかに笑ってこっちに近づいてくる。
「こ、こんにちは…」
私は目をまばたいて頭上に伸びる高層ビルを眺めた。
ビルの先には今にも一雨きそうな重くて分厚い雨雲が広がっている。
まるで私の心境を表しているような。
―――何でロシアン葵ちゃんが、このマンションから出てきたのだろう…
まさか倭人に会いに?
嫌な想像だけが巡り、私はそこから一歩も動けなかった。
「おねーさんも倭人のおうちに行くんですか?
倭人、今お昼寝中ですよ」
ロシアン葵ちゃんが完璧な笑顔を湛えて私に微笑みかける。
何で―――…ロシアン葵ちゃん、倭人のお部屋に入ったの……?
あのお部屋でロシアン葵ちゃんと倭人はたった今まで二人きり……
想像するだけで目の前が真っ暗になった。
カタン……
私の手からケータイが滑り落ちて、硬いコンクリートの階段に落ちた。
こんなときでも食い意地ははってるのか、ケーキはしっかりと抱えている私。
「葵ちゃん…や、倭人に用が……?」
確認する意味で聞くと、ロシアン葵ちゃんは軽く肩をすくめて
「さぁ。ご想像にお任せします♪」といたずらっぽく微笑んだ。



