給水タンクの影に腰を降ろしてタッパーを広げると


「すっげぇうまそう」


と黒猫は目を輝かせた。


胃袋ガッツリ掴み作戦は上手くいきそうだ。


黒猫は「いただきマウス」と言って手を合わせて早速唐揚げに手を伸ばしている。


なんだよ、いただきマウスって。


あんた一々可愛いのよ。


とバイオハザードウィルスを活性化させながらも、私は黒猫の手をぺしっと払いのけた。


「お箸があるからこれ使って」


手の掛かるネコ。そこが可愛いんだけどね。


「うっま♪」


塩麹で味付けした骨付き鶏肉の唐揚げを口に入れて黒猫はご機嫌。


胃袋作戦成功みたい。


「毎日お父様の食事食べてるんでしょ?それに比べたら」


「最近ペルシャ砂糖さんが作りにくる。花嫁修業とかで…


まともな飯食ったの久しぶりかも」


と黒猫はちょっと目を細めて遠くを見ながらため息。


黒猫……苦労してるのネ。


ペルシャ砂糖さんのことは嫌いじゃなさそうだけど、料理に関しては「おいしく」ないみたいだ。


「俺…はじめて胃薬なるものを飲んだ」


黒猫……そう言えば二三日会ってないってだけなのにちょっと痩せたような…??


「でもなんか一生懸命だしサ。がんばってるのを見ると


何も言えない」


黒猫は何も言わずもくもくと食事を摂っているのだろう。


その光景が目に浮かぶ。





「朝都早く嫁にきてよ。



そしたら俺楽になるのに」





な、嫁―――とな!


私は口に入れた卵焼きを喉に詰まらせそうになった。