Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-



その表情にまたどきついて、わたしは逃れるように海へと視線を落とす。


底の見えない水面は、お昼に見るのとはまた迫力が違っていて。

暗闇そのものという感じでヒヤリとするけれど、未知への好奇心もかき立てられる。

深い艶めきのある黒。

彼に似合うな、などと思った。



「高校生でひとり暮らしって、珍しくね?」



ふいに、投げかけられた質問。

わたしはほとんど反射で隣を向く。



「事情でもあんの」



けれども彼は、柵に体重を預けて遠くの景色を見ていた。


……なんとなく、気を遣ってくれているのかな、と思った。

わたしが質問に対してプレッシャーを感じないように。

これは単なる素朴な疑問で、無理に聞き出すつもりはないのだという、意思表示。



「……事情、というほどではなくて……」



家族のことを誰かに説明するのは気が引ける。

だからひとり暮らしであることを、わたしは友達に話していない。


……でも、ただの気まぐれだとしても、わたしに向けて抱いてくれた彼の興味をそぐことは、したくなくて。



「わたしのお父さん、もういなくて……。病気、だったんだけど」



思いのほか、言葉はするりと喉元を通って出た。



「少し経ってお母さんが再婚して……、新しい“お父さん”ができたの。……小さな妹も。いい人たちだから、最初はうまくやっていける気がしてたんだ。

……でも、……わたしは、自分で思ってたよりも、わたしのお父さんのことが、好きで……」