Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-



しばらく走り続けたバイクが停まると、エンジンが完全に切れるのを待ってから、ぴょんと地面に降り立つ。


まるで絶叫マシンにでも乗ったあとみたい。

足元がふわふわして、身体が軽くなったように錯覚する。


慣れない手つきでヘルメットを脱げば、すかさず彼が受け取ってくれた。


強ばっていた体がほぐれ、あたりの空気をめいっぱい吸い込む。

……潮の香りがする。

柵の向こうに広がる海が、心地よい波音を立てていた。



「やっぱちょい冷えるな。……けど、あっち。歩かね?」



近くに見える商店街を示した彼の提案に賛同して、わたしは足を踏み出した。



商業施設や観光スポットが充実している海沿いのこのエリアは、日中は、子供から大人までの幅広い層で賑わうのが当たり前。

けれど今の時間帯は、まるで別の場所のように静かで落ち着いた空気が流れていた。


わたしも何度か訪れたことはあるけれど、こんな時間に来たことはなかった。

それも……男のひととふたりきり、だなんて。


多くのお店が閉店時間を過ぎているものの、さすがはデートコースとしても人気のあるスポットだ。

人通りは多く、しかも大学生や社会人くらいの男女がほとんどで。

わたしたちもその中の一組に当てはまるのだと思うと……。


自分の知らない自分を客観的に覗き見してしまった、ような。

変な気持ちに襲われた。