エントランスへと降りると、思いのほか空気が冷たくて、わたしは肩をすぼめた。
鏡みたいになったガラスドアが、夜の世界へと手招くようにゆったりと開く。
緊張と高鳴りで、心臓が跳ねまくっていた。
踏みしめるように外へと出て、……まずは駐輪場のほうを見てみる。
──誰もいない。
確かめてから、今度は反対の、駐車場のほう。
先に視線を運んで、それから、顔を向けた。
まず目に入ったのは、道路沿いに停まっている黒いバイク。
次に、そこに寄りかかるようにして、スマホへと視線を落とす彼を見つけた。
──ほんとに、いる。
胸の内で膨らみきっていた期待が、喜びをトドメにぱちんと弾けた。
衝撃で、指の先まで電流が走ったようにピリピリする。
わたしは寒さから身を守るようにきゅっと身を縮め、緊張を誤魔化して。
彼に近づいた。
「……こんばんは」
自分で発しておきながら、思っていたよりもだいぶ、小さな声だった。
夜風にかき消されてしまったかもしれない、と不安になったけれど、……きちんと彼に届いたようで。
綺麗な瞳が、瞬きとともにこちらを向く。
目が合って、トクリと胸で生まれた熱が、血液を伝って全身に広がった。
……相も変わらず、このひとの存在そのものが、わたしの調子を狂わせてくるみたい。
「おー。こんばんは」
わたしに合わせてくれたのか、若干投げやりな挨拶が返ってきて、なんだかおかしかった。
言い慣れてないって、感じ。


