「なんも聞いてこないんだな」
「へ?」
「いや、意外だな〜って。怜也くんからは、詳しいことはなにも聞かなかったんだろ? ……だったら、おれを質問攻めにしてもおかしくないんじゃないかと思ってさ。なんで自分がなぎ高のやつらに目つけられたのか、とか」
「……んと。本条くんから聞いたよ? わたしがイブキくんと知り合いだから、だよね?」
「そうなんだけど。もっと詳しいとこをさ」
「詳しい、とこ……」
「そー。そもそも、なんで“イブキくん”の知り合いってだけであんな目にあったんだ〜とか。あいつらは一体なにがしたかったのか〜とか。……気にならない?」
「……そ、れは……」
……気にならないわけじゃ、ないけど。
なんだか本条くんは、話す気がなさそうだったし……。
「こわい、から」
「怖い?」
「……うん。なんとなく、……知るのが怖いな、って思って……」
たださえ、今の状況が不安なのに。
事情まで知っちゃったら……もっと不安になりそうな気がする。
「なるほどなあ」
甲斐田くんは納得したような声を上げた。
そのあとで、
「でもさ」
一歩、わたしより前へと踏み出す。
くるりと体ごと、こちらを振り返った。
「無知ほど危ないものはない、とも言うだろ?」
向き合う形でくれたのは、気遣わしげな言葉。
でもその表情は、言葉に似合わず、楽しげなものに見えた。
「危険を遠ざけてるつもりが、気づいたときには手遅れ……なんてことにならないよう、気をつけないとな」
「……」
優しさなのか、脅かしのつもりなのか。
どちらともとれるから、返す言葉がなかなか見つからなくて。
迷ったのち、……わたしは甲斐田くんの言葉を忠告として受け止めて、頷くことしかできなかった。
核心を突かれてしまったような、気分。
自分なりに、危ないことに巻き込まれてるんだってことは、理解してる。
だけど……。
その危険の正体についてはよくわからないまま。
知ろうとも、していない。
守ってくれるっていう本条くんの言葉に甘えてる。
つまり。
今のわたしは、──自力で避けるべきものの判断をつけることさえ、できないってこと、なんだ。


