Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-



さっき、確かにふたりの仲の良さが垣間見えた気がしたのに。

今はなんだか、甲斐田くんと本条くんの間に不思議な距離が生まれた気がする。


あいつ、じゃなくて、……あの人。

勝手な印象だけど、あまり身近で対等な存在の相手には使わない……ような。


生まれた小さな違和感は、ふたりの関係に対する関心へと変わっていく。


一体どんな間柄なんだろう、とか。

どれくらいの付き合いなんだろう、とか。


けれど、



「まーそういうことだから」



甲斐田くんが話の舵を切ったので、わたしはそれを飲み込むことにした。

これから先、知れる機会があるかもしれないし。



「おれのことは、気兼ねなく連れ回してくれていーよ。どっかについてきて欲しいなり、迎えがほしいなり……。ただ不安になったとかでもいいし、連絡ちょうだい」



甲斐田くんはスマホを片手に、ひらひら、とこちらにかざして見せた。


う……。

甲斐田くんの時間を奪ってしまうことに、申し訳なさを抱かずにはいられないけど……。

本条くんと甲斐田くんの間で決めてくれたことだから。


ここまできたら素直に厚意を受け取るべきだと思い、わたしは頷いた。



「ありがとう……」

「いいんだって。危ない目にあったなんて聞いて、放っとけるわけないからな」



流石は、女の子の扱いに慣れているひと。

こちらに気を遣わせない、誰だって嬉しくなっちゃうようなセリフ。


でも、──なんだろう。

上手くは言えないけど……。


……そのまま言葉通りに受けとってしまっていいのか、漠然とした不安が心の内を掠める感じ。

甲斐田くんのそんなところが、なんとなく本条くんと似ている気がした。