彼は、時折片手でいじっているスマホ以外に、手荷物を持っていない。
コンビニから出た、って言ってたけど……。
結局、なにも買わなかったのかな?
それか、買ったのはポケットに入るくらいの小さい物、だったり。
ガム……とか?
あ、それに……今どきはお会計をキャッシュレスで済ませる人も多いし……。
手ぶらでも、おかしいということはないかも。
「一応聞くけど、あの男に心当たりはあんのか?」
「えっ? あ、……えと」
問いかけられて、くるくるとよく回っていた頭から、彼に対する考えごとが一斉に逃げていく。
……こころ、あたり……。
胸の内で反芻して、わたしは記憶を辿った。
あの男の人が誰なのかは、まったくわからなかったけど……。
関係があるかは置いておいて、──頭の片隅に浮かんだのは、2週間前の、とあるできごと。
だけど、……初対面の人に、とても話せるわけがない。
わたしはその“心当たり”を無理やりに追い払った。
「顔が、よく確認できなくて……。ごめんなさい」


