「結局、……何者、なの?」

「は。なんだそれ」

「だって。普段なにしてるのか、まだ教えてもらえてない、から……」

「そんなに俺のこと知りてーの?」



意地の悪い問いかけに、わたしは照れくさい気持ちを飲み込んで頷いた。

……と、同時に、見慣れたクリーム色の建物に到着してしまう。


……うそ。

タイミング、最悪。


ふたりで並んで歩いたせいか、公園から家までの距離が、いつもよりとても短く感じられた。



「残念。ここまで、な」



まるでゲームかなにかのタイムリミットを告げるように、彼が言う。

繋がっていた手が離されてしまう。

昨日と同じように、自然と彼と向き合う形になって……。



「……っ、このままは、やだ……」



昨日は動けなかった分、……わたしは勇気を振り絞り、彼のジャケットの裾を握った。


結局、タイミングを逃してばかりで、聞きたいことは聞けずじまい。

彼のことはなにも知れてない。

もしかしたら、全部はぐらかされていたのかもしれない。


冷静に考えたら、正体不明な人……で。

2週間前にあんなことがあったばかりで、会ってすぐの人に気を許しすぎるのは危険だって思う自分も、どこかにいる。


だけど。

それでも、──これで最後になんて、したくなかった。



「……また、会いたい……から」



このひとの存在を、どうにかしてわたしの中に残しておきたかった。


だからせめて。



──名前だけでもいいから、教えてほしい。



そう言いたくて、わたしは顔を上げる。


……瞬間、目の前が陰った。

思っていたよりも彼との距離が近くて。

咄嗟に息を呑んだ、その隙に。



「っ」



言葉の出口を塞がれるように、──そっと唇が重なった。