◇
「結局、……何者、なの?」
「は。なんだそれ」
「だって。普段なにしてるのか、まだ教えてもらえてない、から……」
「そんなに俺のこと知りてーの?」
意地の悪い問いかけに、わたしは照れくさい気持ちを飲み込んで頷いた。
……と、同時に、見慣れたクリーム色の建物に到着してしまう。
……うそ。
タイミング、最悪。
ふたりで並んで歩いたせいか、公園から家までの距離が、いつもよりとても短く感じられた。
「残念。ここまで、な」
まるでゲームかなにかのタイムリミットを告げるように、彼が言う。
繋がっていた手が離されてしまう。
昨日と同じように、自然と彼と向き合う形になって……。
「……っ、このままは、やだ……」
昨日は動けなかった分、……わたしは勇気を振り絞り、彼のジャケットの裾を握った。
結局、タイミングを逃してばかりで、聞きたいことは聞けずじまい。
彼のことはなにも知れてない。
もしかしたら、全部はぐらかされていたのかもしれない。
冷静に考えたら、正体不明な人……で。
2週間前にあんなことがあったばかりで、会ってすぐの人に気を許しすぎるのは危険だって思う自分も、どこかにいる。
だけど。
それでも、──これで最後になんて、したくなかった。
「……また、会いたい……から」
このひとの存在を、どうにかしてわたしの中に残しておきたかった。
だからせめて。
──名前だけでもいいから、教えてほしい。
そう言いたくて、わたしは顔を上げる。
……瞬間、目の前が陰った。
思っていたよりも彼との距離が近くて。
咄嗟に息を呑んだ、その隙に。
「っ」
言葉の出口を塞がれるように、──そっと唇が重なった。


