コイビトでもないのに。
昨日会ったばかりの人なのに。
こんなことしてるなんて──。
「……みお」
やっぱりおかしいよ、と思った矢先。
切なげに、彼がわたしの名前を口にする。
そんな風に呼ぶなんて、ずるい。
ずるいよ。
だってわたしは、まだ。
名前を、教えてもらってないのに──。
「もー少しだけ、このまま大人しくしてろよ」
口調は命令じみているのに、甘えるようなその響き。
彼の声に、鼓膜が揺すられて、頭をとろかされて……。
わたしだって名前を呼びたいよ。
なんて。
心を熱くするもどかしさを、打ち明けることはできなかった。
「うん、……」
わたしは言われた通りに、身体から力を抜いて。
彼の腕の中で、ふわふわと襲ってくる夢心地に、大人しく身を委ねてしまった。


