「こっち向け」
動揺で動けなくなっているところを、腕を後ろに引かれて、力なく身体が傾いた。
背後から、ふわり、と漂う甘い香り。
「まだ、帰したくねぇんだけど」
耳元で小さく言われて、たまらなくなる。
頭が真っ白になって、されるがまま。
振り向かされると、彼の腕がわたしを閉じ込めるように肩の後ろに回って、優しく抱き寄せられた。
「怒ってても拗ねててもいーから。離れんな」
「……っ、ねえ」
「ん?」
「……冗談、だから……。だいじょうぶ。怒ってないし、帰らないよ……」
「そーかよ」
誤解は解けたはずなのに、腕を解いてくれるつもりはないみたいで。
身を捩ると、さらにぎゅっと力を込められた。
暴れている心臓が飛び出しちゃいそうになって、唇を噛んで耐える。
息をするので、いっぱいいっぱいだった。


