Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-



持っているスマホに向かって手を伸ばして、けれどいとも簡単に、すいっとかわされる。



「いーだろ、写真くらい」

「やだ。絶対、変な顔してる」

「へえ。後で確認するわ」

「だ、だめっ」



より本気で奪い取らなきゃという気持ちになって、ヒョイと上に逃げたスマホを追いかけた。



「届かねーよ。諦めろ」



そんな意地悪な言葉に負けじとぴょんぴょん跳ねていると、──逆に、わたしのスカートのポケットからスマホが落ちてしまった。



「あーあ」



わたしより先に彼が気づいて、拾い上げてくれる。

砂まで丁寧に払ってくれて、



「……う、ありがとう……」



なんだかひどく惨めな気分に陥っていると。



「──“ミオナ”?」



唐突に、耳に心地いい声が、わたしの名前を呼んだから。

ドクッ……と全身が脈打った。


彼の視線はわたしのスマホに落とされていて。

そのカバーに挟んでいる、有沙と撮ったプリを見られたのだと理解した。


──落書きの、ローマ字で書いてある名前を読んだんだ。