Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-



ゆら、ゆら。

どれくらいそうしていたんだろう。

ブランコを控えめに揺らしながら、わたしはすっかり黒く染まった空を眺めていた。


今日は月がよく見えている。

綺麗な丸じゃないけれど、……雲に隠れることなく、暗い世界を仄かに照らしてくれている。


ずっと見ていると、たった今の時間が、夢なのか現実なのかわからなくなってくるような。

心細いような、哀しいような感覚に襲われた。


左手の熱も、……いつの間にか、冷めてしまっていた。



夜特有の雰囲気にひとり浸っていると、──カシャ、と。

突然カメラのシャッター音が聞こえて、びっくりする。


すぐに犯人がいると思われる方向を見れば、



「やべ。バレた」

「……撮った?」

「いーじゃん。なんか、可愛かったから」

「っ。な、にそれ」

「俺を待ってる感じが、いーな、と思ったんだよ」



ごく自然に口から飛び出した、というような彼の何気ないひと言。

それにいちいち踊り出してしまう、わたしのこころ。


これまたコイビトっぽいやりとりみたいだ、だなんてよぎってしまって。

そんなだらしない思考を隠すように、



「やっ……恥ずかしいよ。消して」



わたしは立ち上がって、通話を終えてこちらに歩いてきた彼に駆け寄った。