Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-




「へえ。優しいのが好みか」

「そういうわけじゃなくて……」

「じゃーこれは?」



まだあるの、と身構える。

再び彼が近づいてきて、



「……俺、姫ともっと一緒にいたい」



今度はほとんど吐息に近いような、甘ったるい囁きがわたしを襲った。



「だめ?」

「……」

「ひーめ?」



ねだるように畳み掛けられて。

わたしはくすぐったさに肩をすくめながら、彼の身体を押し返す。



「も……わかった、から」



それほど強い力じゃなかったけれど、すんなり離れてくれた。



「どー?」

「う、うん。たくさんの姫が喜ぶと思う」

「マジ。目指すか」



楽しげな、調子のいいセリフ。

その内容で、わたしの予想は外れていたのだとわかった。


──で、結局、なにしてる人なの?


そう聞き直そうとした、瞬間。

静かな公園に、スマホのバイブ音が響いた。


すぐには鳴り止まないそれに、



「……わり。俺」



彼はジャケットのポケットからスマホを取り出して、その場で応答する。

スマホを耳にかざすとともに、わたしの手はあっけなく解かれた。


そのまま、ブランコを囲っている柵の向こうまで歩いて行ってしまう。

わたしから距離をとり、小さな機械の向こうにいる相手と会話をしている彼に、なんだか寂しい気持ちになった。