──もし、かして……。



「見てた、んですか」

「まあ」



短い返事に、じり、と頬が熱くなる。



「わたしのこと、……気にして、きてくれたんですか」



なんて図々しい質問。

自分で自分に呆れてしまう。


だけど、わたしが車から降りるところを見てたんだって思ったら……。

見ていた上で、あんな、……駐輪場の奥の、姿が隠れる場所にいたんだと思ったら。

そして、見ていたからこそ遠慮して、一度はなにも言わずにわたしが立ち去るのを待ったのかもしれない、と思ったら。


愛おしさのようなものに胸が切なく突き上げられて、舞い上がる気持ちを抑えられなかった。



「それ以外にねーだろ?」



わかってるくせに、とでも言うように。

浮き足立っているわたしの心なんて見透かしているように、彼は目を細めた。


くらくらして、倒れてしまいそうだった。

心臓も破裂しちゃいそう。


……嬉しい。

夜、別れた後、……忘れられなかったのはわたしだけじゃなかった、なんて。



「だから言ったろ。知らねー男に、家教えんなって」



するりと片手をすくいとられる。

その動作はあまりにも自然で、驚く暇もなかった。



「こーゆーことになるから」



わざと悪ぶったような、冷やかすような口調。

けれど、絡められた指先が、わたしの存在を確かめるように優しく動くせいで。

困るどころか、このひとに家を知っておいてもらえてよかった、だなんて思ってしまった。