ぐるぐると頭の中が忙しくなって、なにも言えずに立ち尽くしてしまう。
やがて、彼はわたしへの興味を失ったように、再びキジミケへと視線を落とした。
それだけのことで、突き放されたようなショックを受ける。
彼がその場を動かないつもりなのが寂しくて、……そんな寂しさを覚えている自分が、とんだ自惚れやろうで恥ずかしい。
わたしはそのまま、静かに後ずさった。
少し離れれば、彼とキジミケの姿はラックの陰に隠れて見えなくなる。
大人しくエントランスに戻ろうとして、踵を返した。
それなのに、足を進めれば進めるほど、……胸の内に巻き起こる暗い靄。
苦しくなって、その場から動けなくなる。
自分がなにを期待しているのかよくわかない。
でも……。
このまま家に帰るんだと思ったら、今にも泣き出してしまいそうだった。
わたしってば、おかしくなっちゃった。
なんで、こんなに……。
──あのひとに、会いたかったんだろう。


