カバンの中を漁り、鍵を探しながらマンションの入り口へと歩く。
駐車場と駐輪場の間に差し掛かったとき。
不意に、ナァ──と鈴を転がしたような声が聞こえて、わたしは立ち止まった。
その場できょろきょろとあたりを探してみるけれど、鳴き声の主は見当たらない。
また、ンニャーァ、と先ほどよりも気持ちよさそうな声が聞こえた。
頭の中に浮かぶのは、このマンションに住み着いている野良のキジミケちゃん。
……どこだろ?
ただいまの挨拶をしたくなって、わたしはエントランスを通り過ぎ、駐輪場へと足を踏み入れた。
予想は当たったようで、だんだん鳴き声が近づいてくる。
お友達といるのかな?
甘えたような声に、他の野良猫と戯れているのかも、と考えて……。
いちばん奥のラックまでやってきたところで、──わたしは、ピタリと足を止めた。
「……お前、すげぇ人懐こいのな」


