……困ったな。

今……「いい子」って言われて、嫌な気しなかった。


わたしってば、だんだん本条くんに絆されてきちゃってるのかもしれない。

そのうち、お手して「ワン」とか言うようになちゃったら……どうしよう。

いくらなんでも、相手が学園の王子・本条怜也くんだからって、人間としての誇りと恥は捨てたくないよ……。



「着いたよ」



ひとり想像を膨らませ青くなっている中、本条くんの声で我に返る。

車は、とっくにマンションの前に到着していた。


急いで荷物を持って、外へと降りた。



「ありがとうございました」

「じゃ、また明日」

「うん。またね」



本条くんにも運転手さんにも頭を下げてから、車に背を向けて、わたしは駐車場の中へと進んでいく。

しばらくすると、背後でエンジンが遠ざかっていく音がした。


……わたしの姿が見えなくなるまで、待っててくれたみたい。


本条くんの徹底した優しさに、心が温かくなった。