震える息をそっと吐き出して、本条くんの言葉を受け止める。


目を逸らして、耳を塞いで、大人しくしていれば大丈夫だって……。

変わらない日常を過ごせるって。

そういうこと、だよね?


本条くんが隠してくれようとしているなにかから、距離をとろうとしているわたしの判断は間違ってないのだ、と。

そう言ってもらえたみたいで、だんだんと気持ちが落ち着いていく。



「俺がずっとついてられたら楽なんだけど。……そうもいかないから、なにか考えるよ。また連絡する」

「……うん。ありがとう……」



わたしが素直にお礼を言ったのが、意外だったのか。

本条くんは眉を持ち上げてこちらを見た。


思わず追いすがるような目を向けると、満足げな軽い微笑が、その左頬に浮かんで。



「それ、鼻水?」

「……えっ、うそっ」

「あ。違った。涙か」



いつの間にか濡れていたわたしの頬を、ぐし、と制服の裾で拭ってくれた。