「……だ、大丈夫ですっ……声、出せます……」
なんとか絞り出せたのは、うわずっていて、弱々しい響き。
恥ずかしさで、わたしの顔にはさらに熱が集まってしまった。
「そーかよ。なら、いいけど」
ふっと薄い笑みを返されて、いたたまれない心地になる。
ドクドクと、首元で大げさな音を立てている鼓動。
胃のあたりで膨らみ、内蔵を圧迫している緊張感。
一点に留まらせることができず、落ち着かない視線。
全部がぜんぶ、……恐怖からきているだけのものじゃないってこと、見透かされている、ようで。
「あ、あの。……ありがとう、ございました」
注がれる視線から逃れるように、わたしは頭を下げた。
……うん、と……。
これはもう、帰るべき、だよね?
自分のつま先を見つめたまま、できるだけ自然な別れを心がける。
もう一度小さく会釈をして、わたしはその場に背を向けた。
視線を上げなかったのは、……おかしなことに、もう一度彼の目を見たりしたら……このまま別れるのを、惜しく感じてしまいそうだったから。


