Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-



なんとかしてこの場から逃げ出したいのに、頭がぼんやりしてきて、思うように体を動かせない。


もっと、全力で暴れなきゃいけないのに……。


スカートの内側にも手のひらが侵入してきて、指先が太腿を撫で上げる。

ぞわっ……という感覚が頭の後ろに向かって駆け巡って──わたしは、咄嗟にぎゅっと目をつむった。



「……んぅ……っ」



抵抗する意志を見せていた腕や足から力が抜けて、弱々しい声がもれる。

わたしは動揺して、縋るように近くの男を見上げた。



「お……効いてきた?」



わたしに跨ってしゃがみこんでいた男が、不気味に口角をあげた。

乱雑にわたしの頭を撫でてから、立ち上がる。

同時に、わたしの両手も開放された。


……それなのに。

わたしは起き上がることができなかった。


きっと、男もわたしが動けないとわかっているから離れたんだ。

路地を塞ぐような位置に移動して、ようやく電話が繋がったのか、見えない相手となにかを話している。


……そんな場所に立たれたら、助けを望むなんて絶望的だ。

外からはきっと、わたしの姿なんて見えない。


ぶわり、と諦めの涙がさらにわたしのこめかみを濡らしていく。


けれどすぐに、体をまさぐっている手に意識が引き戻されて。

小さな波のように身体に広がり続ける感覚に、我慢できずに吐息がもれた。