Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-




「まじで? こんなとこですんの?」

「どーせ誰もこないだろ。てか外で……とか、なんかイイじゃん」

「お前、キモっ」

「はあ? いいわ、テメェは見てるだけな。じゃあーちょっと、失礼して……」



ひとりの手が伸びてくる。



「──や……っ!」



触れられる寸前で、その手を払った。

わたしに近づいたふたりの間を縫うように飛び出して、スマホを耳にかざしてる最後のひとりの横をすり抜ける。


──だけど、グッと首の後ろを掴まれて、それ以上進むことができなくなった。



「やだ……やめてっ」

「いいね。その声」



すごい力で後ろに引かれて、わたしの身体はまんまと倒れた。

肩から地面にぶつかって、あまりの痛さにうずくまる。



「嫌がる女の子は大好物だし、ほんとはもっと声聞きたいんだけど、……ゆっくりできる場所でもねーからさ。それはまた今度ってことで」



コンクリートに横たわるわたしを跨ぐように、電話をしている男が覆いかぶさってきて、



「やっ、離して……っ」

「お前ら、そこの水買って」



ガコンッ、と頭上で自販機が音を立ててすぐ。

無理やり口の中に水を流し込まれて、わたしは抗えずにゴクリと喉を動かしてしまった。


どうして水を飲まされたのか。

その理由を考える余裕なんてなかった。


間髪入れずに、相手がポケットから取り出したなにかを、わたしの口の中に入れてくる。

固くて小さい、タブレットのようなもの。


得体の知れないそれを反射的に吐き出そうとしても、骨張った指がグイグイと押しやってきて。

舌下に挟むようにした状態で固定された。


ついさっき飲まされた水のせいで、口内が潤っていたから。

じわっと溶けだすのに、時間はかからなかった。


……苦い……っ。


不快な味が口に広がるのと、じゅうぶんな呼吸ができないのとで、生理的な涙がじわりと滲む。