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2週間前の、その日。
放課後に有沙と校内で話し込んでしまったせいで、帰るころには、外はもう真っ暗だったんだ。
有沙は電車通学で、わたしは自転車。
有沙を駅まで送ったあと、いつもの癖で、近道として大通りから外れた裏の通りを使っていた。
学校と家の間には、坂が多くて。
ペダルを漕ぐのを早々に諦め、自転車を押すことにした、ひとつめの上り坂。
「平石澪奈ちゃん?」
坂のてっぺんからフルネームを呼ばれたとき、わたしはなんの警戒心も持たずに、少し先に立つ3人の男子高生を見上げていた。
──誰?
わたしの名前を知ってるってことは……クラスのひと、とか?
暗がりの中、顔があまり見えなくて。
目を凝らしている内にあっという間に距離を詰められた。
近づいたことではっきりと見えた彼らの制服に、勝手に身体が硬直してしまう。
「ちょっと話があんだけど、ついてきてくれる?」
こちらに許可をとるようなセリフなのに、拒否することも承諾することもできないような圧があった。
動かないわたしに痺れを切らしたひとりが、腕を掴んでくる。
強く引かれて、わたしの手から離れた自転車が、ガシャンッ、と力なく倒れた。


