ついこの間知ったばかりのことだけれど、本条くんは、イブキくんと知り合いらしく。
……そして、わたしがイブキくんの幼なじみであることを、前から一方的に知っていたみたい。
「いいよ。職員用玄関で」
本条くんはいかにもめんどくさいというような声色で言った。
「……ごめんね。ありがとう」
「さっきから謝りすぎ。うぜぇ」
おでこをくいっと押されて、頭が揺れる。
不意打ちを食らってよろけていると、その隙に本条くんはわたしを置いて行ってしまった。
今度こそ離れていく背中を見送って、おでこを擦りながらポツンとひとり、その場に残る。
……相変わらず、思っていたよりも、乱暴なひと。
今みたいな、人当たりのいい笑顔の裏に隠された部分を目にすると、もしかして不良だったなんて噂は本当なのかも、と思ってしまう。
第一印象とはまるで大違い。
まだちょっぴり怖いと思うときもあるのに、……不思議と嫌な気はしないのだから、自分でも笑っちゃうけど。
……たぶん、みんなが知らない本条くんを特別に見せてもらえてるっていう、優越感のせい。
物腰柔らか。
紳士的。
そんな言葉がピッタリ──な、みんなが知ってる本条くん。
わたしも少し前までは、そう思い込んでいる内のひとりだったんだ。
少し前……正確に言うと、2週間前。
わたしが表向きでは“事故にあった”ということになっている、あのできごとが起こるまでは。
無意識下で、右肩に触れていた自分の左手。
廊下に響いた複数の足音にはっとしてその手を降ろすと、自分の教室に戻るため、わたしは踵を返した。


