Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-



早まる音を追いかけるように、置いてけぼりにされていた脳みそが状況を把握していって、



「……や」



わたしはやっとの思いで、喉を震わせた。



「やめたほうがいいよ、わたしなんて……」

「……」



本条くんの整った顔から、ふっと表情が消えた。



「本条くんがいちばん、よく知ってるでしょ」



わたしは自嘲気味に笑って見せる。



「……わたしが、」

「それ以上続けたら、まじでその口塞ぐぞ」



鋭い声がわたしの背中へ突き抜けて、半ば反射的に口をつぐむ。

普段の柔らかな口調と打って変わって、わたしにぶつけられた乱暴で投げやりな言葉。

思わず身体が強ばると、本条くんは呆れたように息を吐き出して、わたしの頬を解放した。

丸めていた背中を伸ばし、わたしから距離をとる。



「……ご、ごめん。怒んないで……」

「別に怒ってない。イラついただけ」



……。

……どう違うんだろ?


つい疑問に思ったけれど、自分の中に留めておいた。



「というか、付き合うとか冗談だから。本気にしなくていいよ」

「そ、そうだよねっ……ごめん」

「平石さんに手なんて出したら、俺があいつに殺されそうだし」

「……あいつ?」

「んーん。こっちのハナシ」



適当に誤魔化されて、それ以上追求できなかった。


でも、もしかしたら……って。

わたしの幼なじみの、“イブキくん”のことかもしれない──そう思った。