Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-




う……。

だって、だって。

こうして校内でちょっとした話をしているだけならまだしも。

一緒に帰る、なんてところをクラスのみんなに目撃されたりしたら……。


絶対に勘違いされるだろうし、女の子たちみんなから敵対視されるに決まってる。

瞬く間に情報が広がって、次の日には学校中から注目されちゃいそうだよ。


……有沙だって……。


ついさっき、嘘をついて本条くんを追いかけたことを知られたらと思うと、胃がキリキリと痛んだ。



「だったらさ」



ふいに驚く間もなく、頬に大きな手のひらが添えられる。

くい、と力を加えられ、上を向かされて──。


されるがまま本条くんを見上げる形になると、至近距離で視界に映った甘い顔立ちに、バクンッ、と心臓が飛び上がった。



「もういっそ、俺と付き合ってることにでもしようか」

「へ……」

「その方が色々と楽だと思わない?」



どう? だなんて、首を傾げられる。

突然のことに思考が停止して、わたしはポカンと口を開けたまま絶句した。



「……わあ、すごいアホ面。ここでキスでもしてみたらどうなっちゃうのか、気になるね」



すぐそばにある薄い唇が、にやりと意地悪く弧を描いた。

随分と絵になるその表情に、……徐々に、心拍数が上昇していく。