Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-




「多々良くん……は」

「ん?」

「多々良くんも、百鬼のメンバーってこと、ですよね」



もしこの中に、飛鷹がいて。

わたしに気づいてくれたら、……助けてくれる?


……ううん。可能性は低い、かも。

だって、ただのオアソビ相手だもん。

どうなろうと関係ないよね。


思い上がりも甚だしい考えだ。



「あー……うん。そうだね」



僅かに頭を傾けた来栖くん。

前髪が揺れて、柔らかな目元が露わになる。



「そっか。澪奈ちゃんは、多々良クンに会いに来たんだっけ」

「え、あ……会いに来たというか、う、……はい」



連れてこられたのか、ついて来たのかなんて、誤差みたいなものだ。

いちいち訂正しなくてもいいか、と諦めてしまった。

わたしの返答に、来栖くんはふわりと微笑んだ。

目尻にくしゃり、シワが寄る。



「まだ気づかないんだね」

「……へ?」



視線を斜めに落として、



「まあ、こんなことしてるってことは、本人も、もう隠すつもりもないんだろうし。いいか」



なにやら呟いたあとで。

ひと呼吸おいてから、いたずらっ子のような視線をこちらに向けてくる。



「多々良クンなら、ついさっきまでここにいたのに」

「……」



──え?


来栖くんの言葉を受け止めて。

その内容を噛み砕けないまま、トクン、と体だけが先に反応した。

息をつくことも忘れて、わたしは言葉の続きを待つ。



多々良惟吹(たたらいぶき)



聞き心地のいい声で、スピードで、はっきりと。

来栖くんはその名前を口にした。



「澪奈ちゃんが探してる“多々良くん”は、

──イブキのことだよ」