「……ね! 王子、今こっち見たよね」

「見た……かも?」



わたしは曖昧に返しながら、テーブルの上のお昼の残骸を掴み、立ち上がる。



「ごめん有沙。わたし、先生に呼ばれてたの忘れちゃってた。先に教室戻ってて?」

「ん。おっけーい」

「プレゼント、ほんとにありがとね」

「どーいたしまして」



廊下へと消えていく本条くんを視界の端に捉えながら、ゴミをまとめたビニール袋を捨てる。

慌ててカフェテリアを出ると、廊下の右手に、ちょうど角を曲がっていく後ろ姿を見つけた。


どこに行くんだろう……。

まさか、本当に理事長室だったら困っちゃう。

なんとか入る前に追いつかないと。


他に人がいないことをいいことに、廊下をパタパタと走る。


突き当たりまでやってきて、体の向きを変えたところで、



「もしかして、俺に用事?」



腕を組み、壁に寄りかかるようにして立っていた本条くんが目の前に現れて、ぎょっとした。

身体を大きく揺らして足を止めたわたしを、フッと鼻で笑う。



「そんなにビビらなくても」

「……き、気づいてたの……」

「あんなに熱烈な視線送られたら、さすがにね」



……熱烈、って……。

別に……ただ見てただけなのに。


それに、



「他の子だって、みんな本条くんのこと、見てたよ」

「知らないやつはどうでもいいよ。相手が平石(ひらいし)さんだったから、気になっただけ」