Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-




「俺、来栖凌久(くるすりく)。よろしくね」

「……あ、……はい……」



安心しろって言われたって、完全に警戒を解くことはできなくて。

名乗らず会釈までにとどめた。



「澪奈ちゃん、だよね。ごめんね。怖いと思うけど、もう少しここで俺と待っててくれる?」



……なんだ。

この人もわたしの名前、知ってるんだ。


一方的に認識されているということに、慣れが生まれてきてしまった。

もう驚くこともなくて、わたしは小さく頷く。

促されて、置いてあった椅子に腰を下ろした。



「荷物はこれだけ? あ。念のため、スマホも預かっていいかな」



穏やかな口調だけれど、拒否権なんて用意されているはずがない。

わたしはなにも言わずに、片手に握りしめていたスマホを差し出した。

それが、来栖くんの手に渡る寸前──、


ヴーッ、ヴーッ、と意志を持ったように震え出し、ふたりの間に流れていた時がピタリと止まる。

黒い画面に浮かび上がったのは、予想外の名前だった。



「……有沙……?」

「友達?」

「えと、……そうです」

「出ていいよ」



こちらもまた予想外の許可が下りる。

わたしは戸惑いがちに見上げた。



「もちろん、余計なことは言わないように……って、わかってるよね」



……わかってる。

わたしだって、有沙のことは絶対に、危ないことに巻き込みたくない。


静かな圧を感じとりながら、緊張気味に電話をとった。