Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-




「こいつ、例の。見といて」



連れてこられたのは、渡り廊下を進んだ先の、体育館。

幕に覆われた舞台袖。

まるでひとつの部屋みたいに、椅子や机、飲み物、漫画……と物が放置されている。


そこにいた、たれ目が印象的な男の子に引き渡された。

今まで見てきたなぎ高の人たちとは、また違うタイプの男の子。

すごくいいひとそうに見える。


でも、本当のことなんてわからないんだから。

今度こそ騙されちゃダメ──。


わたしは離れていくイブキくんの袖を、反射的にきゅっと握ってしまった。


一緒にいるなら……ふたりきりになるなら、イブキくんがいい。

今のイブキくんは、心から信用できる人じゃないのかもしれない。

それでも、知らない人の何百倍もいい。


こちらに背を向けていたイブキくんがわたしを振り返る。

目が合うと、ふっと笑われた。



「安心しろ。こいつはなんもしねえ」

「……」



……あれ……。


その表情に身体を解きほぐされるように、わたしの体から力が抜けていく。

イブキくんの学ランから指が離れて。

その隙に、目の前の背中は今度こそわたしを置いて行ってしまった。


……今の、イブキくんの目。

さっきまでと全然違うように見えた。

わたしの知ってる、イブキくんだった……?


見間違いじゃないと思いたくて……、ぼうっと入口に立ち尽くしたままでいると、



「はじめまして」



隣から声がかかってはっとする。