絶対に誰にも言えないけれど、……個人的には、本条くんを表すなら帝王という響きのほうが、なんとなくしっくりくる気がする。



──たぶんきっと、なにが起きても、いつだって本条くんが正しい。


無条件でそう思わされるくらいに、常に堂々とした、圧倒的オーラを放っているから。


見た目はさながら優等生でありながら、人並みに遅刻やサボりだってしているみたいなのに。

先生たちも、……本条くんには一目置いていて、口出ししない。

してるところ、見たことない。

理事長の息子だからなのか、本条くんの隙のない佇まいのせいなのかはわからないけど。


この学校にいる誰ひとり、本条くんには逆らえない。

生徒のほとんどが、漠然とそう感じているはず。


だからこそ、本人から離れたところで、色々な憶測の混じった噂がおもしろ可笑しく飛び交っている。


本条くんに目をつけられた生徒は退学、だとか。

中学のころは好き勝手していて喧嘩がものすごく強かった、だとか。

起こしてきた問題を親に揉み消してもらっている、だとか。

過去に恋人を亡くしていて、彼女をつくらないのはそのせいだとか。

またそれは間違いで、どこかの財閥のお嬢様の許嫁がいるだとか……。


どこからどこまでが本当かわからないし、そもそも本当のことなんてひとつもないのかもしれない。


みんな、どうせ噂の真偽なんてどうでもよくて。

身近にいるのに現実離れした本条怜也くんという存在を、自分の人生を彩ってくれる登場人物の内のひとりとして楽しんでいるんだ。




周りの女の子たちの視線をしっかりと集めながら、本条くんがカフェテリアから出ていこうとする。


その、間際。

ちらりとこちらに視線をよこした彼と、目が合った気がした。