Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-




「知ら、ない……。言ってないから」

「なに考えてんだ」

「だから。多々良クンに会いにきたんだって。……ね?」



わたしの代わりに答えた菊川くん。

会話のパスを投げるように、首を傾げてくる。

イブキくんはそんな彼を、なにか言いたげに一瞥した。
まるで咎めるような目、だった。



「その名前、どこで聞いた」



イブキくんの視線が、もう一度わたしに戻ってくる。



「……前に、本条くんが……。知らないなら忘れてって言われて……。でもわたし、その人のこと、 知ってるかもしれなくて」

「だからってこんなとこまで来たのか。自分を襲った男についてくるような、馬鹿な真似して」

「……ひと目見て、帰るつもりだったの……」

「男しかいねぇ場所に忍び込んで、オハナシだけで済むと思ったなら驚きだな。それとも──最悪、犯されてもよかったか」

「そんなこと、思ってない……!」

「じゃあ。なんで抵抗しなかった?」

「っ。やめてって言った、わたし」

「言葉だけじゃ意味ねぇだろ」



ぐ、とイブキくんに詰め寄られて、お尻のあたりが、後ろにある机にぶつかった。

そのまま体を押され、机の端に体重を預ける形になる。

僅かに折れたわたしの膝の間から、イブキくんの手がスカートの中に侵入してきた。

その指先はあっという間に、つい先ほどまで森下くんが触れていた箇所へとたどり着く。



「ここまでされても、じっとしてただろうが。好きでもない男にこんなとこ触られて、なにも感じねぇのかよ」

「……」

「誰にでも体を許すような、そんな女じゃないだろ、……お前は」



そうであってほしい、というような。

願望が含まれているようにも聞こえた言葉を受けて、森下くんにひどく言われて傷ついたときよりも遥かに、悲しくなった。