「七央。お前、ただ見てたのか」
「……えー、僕?」
森下くんの横にしゃがんだままの菊川くんは、イブキくんを見上げて。
次にわたしへと視線を移動させると、口の端を怪しく持ち上げる。
「だってそのオンナ、ほぼ受け入れてたぜ。もうちょっと嫌がる素振り見せてくれたら、僕もまあ、なんとかしてやるかなあとか思ってたのに」
「……」
そんな風に言わないでよ。
わたし、……ちゃんと、いやだったのに。
けど、途中から諦めの気持ちになってしまったのは、ほんとう。
菊川くんは声のトーンを一段階上げて、楽しそうに表情を緩めていて、まるで人が変わったみたいだ。
たぶん、こっちが普段の菊川くんなのだと、直感で思う。
菊川、と呼ぶ森下くんと、七央──きっと菊川くんの下の名前──と呼ぶ、イブキくん。
どちらとより親しいのかなんて、一目瞭然。
先ほどまでの冷めたテンションは、もしかしたら一緒にいた相手が森下くんだったから、なのかもしれない。
菊川くんの言い分の真偽を確かめるように、イブキくんがこちらを見た。
わたしは否定も肯定もできず、目を泳がせる。
「……久しぶりだってのに、随分な再会だな」
軽い笑い混じりの挨拶が飛んできたと思ったら、
「ここにいること、本条は知ってんのか」
続いた響きは、硬く険しいもの。
……ふたりが知り合いだってこと、疑っていたわけじゃないけれど。
イブキくんの口から、すぐに本条くんの名前が飛び出したことに少しだけ驚いた。


