Ephemeral Trap -冷徹総長と秘めやかな夜-



──間を置かず。

まぶたの先で鈍い音が爆ぜる。

わたしの体の上から消え去った重みが、近くに崩れ落ちる気配がした。

ほんの、一瞬のできごとだった。



「笑えんのは、てめーのクソちっせぇ脳ミソのほうだろ。猿が」



なにも状況が見えない中、淡々と吐き捨てられた暴言。

聞こえた拍子に戦慄が走る。

でも、イブキくんが放ったものだとわかっていたから、腕を引っ張られたのを合図に、わたしは、……恐る恐る目を開けた。


思った通り、腕を引いていたのはイブキくんで、そのままグイッとわたしを立ち上がらせてくれる。

隣を見れば、森下くんが床に力なく横たわっていた。


……気を失ってる、みたい。

なにが起こったのかなんとなくわかったけれど、できれば想像したくなかった。

呻き声さえ……しなかった。



「あーあ。完全に伸びちゃってら。だから言ったのに」



ずっと離れたところにいた菊川くんがやっと、近くまでやってきた。

森下くんのそばに屈んで、ぐったりと動かない彼をいいことに、その服をまさぐりはじめる。

あらゆるポケットを探り、



「お、あった。はいコレ。没収な」



なにやら小さな黒いケースを手にして。

満足気にカタカタと揺らしながら、「って、聞こえてねぇか」なんて付け足した。


イブキくんは放心しているわたしの服をさっさと整えて、パーカーのチャックを首元まで上げてくれる。

ありがとう、と告げた自分の声は、弱々しく掠れていた。