膝から太ももへと這ってくる森下くんの手。
……気持ち悪い。
けど、前はこの手を気持ち悪いって思えなかった自分が、……いちばん、気持ち悪い。
そう思ったら、全身からふっと力が抜けていく。
絶望的な状況に体が冷たくなっていくのと反対に、目元は熱を帯びて。
自分の無力さに、ツンと鼻の奥が痛んだ。
好き勝手に触られているせいで、呼吸が浅くなってくる。
飛鷹が相手のときに感じた心地良さなんて微塵もない。
ううん。もはや、感じるものなんてなかった。
……飛鷹。
近くにいるなら、きてほしい。
でも、こんなところ、見られたくないとも思う。
どうしたらいいの。
たすけて、
「……ひだか、……」
心の中だけではとどまらず、ぼんやりとその名前を声にしてしまった。
わたしを撫で回していた手が、少し遅れて、止まる。
「なあ、今……」
森下くんがなにかを言いかけたそのとき、
「森下、あのさ」
「っんだよ菊川。いーとこだっつの。つーかお前はいつまでいんの?」
「そこ、今すぐ退いたほうがいいよ」
「はあ?」
ガラッ、と音が立ったのは、教室の前方。
先ほど森下くんが閉めたドアが、誰かによって開かれた。
──足音なんてしなかった。
そのひとは静かに教室に入ってくると、前髪から覗く瞳をこちらに向けて。
おもむろに、……無表情の上から口元だけを貼り付けたような、冷え冷えとした笑みを浮かべた。


