「ほら、こっち。おいで」
引っ張られるまま森下くんの後に続いて、誰にも見つかることなく昇降口へと辿り着く。
授業が終わってからしばらく経っているし、幸いなことに、校内に残っている人はほとんどいないのかもしれない。
……よかった。
見つかって、あのときのように複数人に囲まれてしまったら、それこそ終わりだ。
その点、森下くんがなぜだか他の生徒からわたしを隠すつもりでいてくれるのは、ありがたかった。
いよいよ校舎へ入るというところで、
「そのまんまでいい」
また腕を引かれ、抗えずに靴のまま踏み入れてしまう。
見れば、森下くんも土足。
上履きという概念がない高校もあるんだ、なんてびっくりしていると、視界を横切った近くの靴箱にはしっかり上履きが揃って置かれていた。
常識的なルールを守る気が毛頭ない森下くんの行動に、さらに恐れが増していく。
……わたしの当たり前が、通用しない世界なんだ、って。
「いちばん上に空き教室があんだ。そこに多々良も呼んであげるから」
階段に向かって背中を押され、重たい足を動かさざるを得なかった。
4階にある、一番端に位置する教室。
ガラリと開かれたドアに招かれて、中へと入ると。
そこにあったのは予備のものなのか、乱雑に置かれた机や椅子に、教卓。
奥には、マットや跳び箱まで放置されていた。
ほとんど倉庫のような状態の空間。
なんだか落ち着かなくて、視線だけをあちらこちらへ巡らせていると、ドアを閉めた森下くんが近づいてきて──。
「もう俺ら以外いないし、とっていーよ」
いきなりフードを剥がれ、小さな悲鳴がこぼれる。


